とあるXの戯言

色々社会不適合者の話

Xジェンダー当事者でその他色々社会不適合者による、どうでもいい話たち。

【映画レビュー】ミッドナイトスワン

お疲れ様です。相も変わらずニートです。

本日は現在公開中の映画『ミッドナイトスワン』を観に行ってきたので、その感想をば。

意図せず映画レビュー記事が多くなってきていますが、決して映画レビューブログではないんで、あらすじ説明とかすっ飛ばして本当につらつらと書いていきます。
以下ネタバレ注意です。





ストーリー

とりあえず感動し(てしまっ)た

親戚の子を仕方なく引き取って、最初は不仲だったし、その後引き離されて(多分一年強くらい後に)凪沙と一果が再会できたのはよかったなあと思ったんですけど。

この後いろいろ突っ込みますけど、最初にやっぱり言いたいのは、2020年に、SRS(の後の病気とか衰弱)で実際死ぬのか?

ダイレを怠ったと凪沙言ってたと思うんですけど(「ダイレ(ーション)」とは言ってないが)。
確かにダイレって、私はデフォルトで穴がある身体に生まれた方なので経験することは今までもこれからもないのですが、やっぱり見聞きする限りかなり壮絶な印象を持っています。
元々グロテスクな描写は総じて苦手ですし、そういう意図がない手術シーンでも苦手で、聞くだけで血の気が引いて手足に力が入らなくなってしまうくらいで。
正確にはダイレとは言わないかもしれないですが『男であれず、女になれない』を通勤の電車の中で読んでたときに男性器摘出後の記述があって、それが結構正確だったのもあってそれ読んで血の気引いて電車の中で気失って倒れたことあるくらいです(マジです。一応「あ、これまずい」と思って読むのやめたんですけど、回復するより血の気が引く方が早く……。こんな理由で周りに迷惑かけてしまって申し訳ないし(電車は止めなかったようですが)、恥ずかしいし、ある種この本読んでるっていう点でカムになり得るから、周りに理由なんて言えんし。まあその頃第一次会社クソ辞めたい時期で精神的に参ってたってのもあると思うけど)。

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その点、さすがに直接ダイレをやったりやらなかったりするカットはないですが、血の滲むおむつをしてぐったりしてる凪沙を、観客に説明なしに出す映画が全国公開されてるってのは、2020年だなって感じはします。それも元SMAPが演じてるってのも。
実際、平日の昼間にも拘わらず結構観客入ってたのですが、果たしてSRSの後ダイレってもんがあるんだってのを映画見る前から知ってる人はこの中に何人ほどいるのだろうと思っていました。

話が逸れましたが、いずれにせよ、凪沙としてはバッドエンド(と思う)なわけですが、またバッドエンドかあ。そうかあ。
いやバッドエンド自体は嫌いじゃないというかむしろ好きなんですけど、当事者目線で考えるとたまにゃハッピーエンドもあってもいいんじゃねえの?と思っちゃうんですよね。
LGBTQって、マイノリティって、マジョリティからしたらそんなに報われちゃいけないんですかね。
エンパワーメントしてくれるコンテンツ見てえよなー。

とはいえSRS自体はMtだろうがFtだろうが壮絶な手術だとは思います。
そのところ受けたことのある方教えてほしいなどと俺氏は申しており。

ちゃんと差別がおかしいってのが分かる

一方で差別的シーンはいくつかあるのですが、それが分かりやすくちゃんと差別ダメみたいに描かれていて、その対象で差別なく受け入れているシーンが分かりやすくなっていると思います。

まあそれでも差別のシーンの方が多いなあ。
記憶力皆無の俺がざっと思い出しただけでも、一果がクラスメイトに凪沙について揶揄されるところ、実家に帰って親戚や親に化け物扱いされるところ、ショーの客が「オカマ」とか言うところ、採用面接官が「LGBTって流行ってますよね」とか言うところ、等々。
何だよLGBTが流行るとか。こちとら流行りでやってんじゃねえんだよ。ざけてんのかコノヤロー。
(という怒りは、一緒に面接官している部下と思われる女性がたしなめるところである程度回収されるんですけど。あなたは分かってらっしゃる)

差別なく受け入れるシーンは、一果自身もそうだし(最初はびっくりしている感じでしたけど、はっきりとセクシュアリティを否定してはいなかったし、少なくとも最後は受け入れてただろうと思うので)、バレエの先生も毛嫌いする感じではなかったし。でもそれくらいだったんじゃないかな。

でも「オカマ」って言うのが差別っていう感覚は、本当にここ数年の話ですよねー。
(まあ先日とある舞台のインタビュー記事の草案(役者本人の発言)では「オカマ」って侮蔑的な文脈で使ってたそうですがね。)

「母性」ねえ……

唐突ですけど個人的に「母性」って言葉が嫌いなんですよ。
そりゃ子ども授かったことも責任もって育てたこともないから母性が芽生えたこともねえ奴が何言ってやがるって感じなんですが、なんかこの言葉使われると、母性って、「女性」ならみんなあるもんでしょみたいな押し付けを感じてしまって。
しかも実際の子育てでは、例えば私なんかは3歳くらいまで一旦機嫌が悪くなると数時間~半日ぐずるという問題児だったそうなんで(生来気難しかったんですね~今もある意味変わらんね~)、そういう子と冷静に向き合うのはむしろ圧倒的理性では?と思っているので、そういう忍耐も「母性」と言われるのは癪なんですよね。
お母さんさすが!お母さんってやっぱりすごい!みたいな、「こうして持ち上げときゃお前ら気が済むんだろ」的に感じる。ムカつく。
単にその人たちがめちゃくちゃすげえんじゃ。

この「母性」って言葉がどこに出て来るかというと、映画の公式サイトをググると下に表示されるキャッチコピーに入ってるんですねえ。

トランスジェンダーとして身体と心の葛藤を抱える凪沙は、母に捨てられた少女と出会い、母性に目覚めていく。「母になりたかった」人間が紡ぐ切なく衝撃のラブストーリー。

いやまあ目覚めたならいいんですけどね。単に私が嫌いってだけですから。

(法的に)母になりたいがためにSRSしなきゃならんのかい(分かってたけど)

で、SRSの話自体は一果を受け入れる前から出てましたけど、凪沙がSRSに踏み切った理由が

母性が芽生えた (← あえてこう書いてる)
→ 法的に一果の「母」になる資格を得るために戸籍を変える
→ 日本で戸籍を変えるには性器摘出必須
→ この際だしSRSやるべ

っていうのなら、つらいですよね。
そうだった、日本ってまだそこまでしなきゃいけなかったわ、と改めて突き付けられました。
戸籍を変えずに「父」になるって選択肢もなくはなかったですけど、そうなると子どもがいる限りSRSが逆に無理になるわけですし、いずれSRSも視野に入れてたなら、そういう選択になりますよねえ。
どうにかなんねえのなかあ。日本くらいでしょこんなの。しんど。

友達、死んで終わりかよ、とことん報われねえな

最後に一つ突っ込んでおきたいのは、一果の友人の鈴華が(多分)自殺した後に一果が悲しみにふける描写すらなく、あの自殺の場面で鈴華が終了してしまったこと。
え?方法はどうであれ一果にバレエを続ける指南をして、ビアンまで匂わせておいて、ここで終わり?単純に扱いひどくない?って悲しくなってしまいました……。時間的にもう入れられなかったのかもしれませんが……。



やっぱりLGBTQ当事者なんでほぼ凪沙サイドの話ばかりで、一果だって虐待受けてるし、鈴華だって文字通り死ぬほど思い悩んでたのに、ほぼ触れられず。さーせん。
ヤンキーの広島弁はマジでビビるとだけ言っておく。


俳優

本映画が全国で公開されている所以ってやっぱり元SMAP、大スターの草彅くんが主演だからだと思うんですけど、個人的には特にやっぱSRS後の衰弱しきった後の演技が秀逸だわって思いました。
勿論普段のトランス女性としての演技もよかったと思います。所作とか、恐らくトランス女性の当事者からの指導も受けたんでしょうけど。それにあんなハイヒールでカツカツ歩いて走って。俺できねえもん。まず立てない。
でも、もう金魚のいない水槽に餌をまくシーンは特に、狂気すら感じました。これぞ草彅剛……。

そして一果役の服部樹咲さん。すごかったですね(語彙力)。
「新人」ってわざわざテロップに出ましたけど、公式サイトによれば演技すら初めてだそうですね。最初に出てきたとき「まったく見た記憶ねえ顔なんだよな、俺の不勉強かな」って思ってましたけど、そりゃ見たことねえよ。

でも最初から何となく違和感を覚えてたんですけど、バレエのシーンになって分かりました。あ、この人バレエガチ勢か、と(言い方失礼)。
手足長いし、額広いし。
額広いってのはちょっと偏見ですけど、実は私もかなり小さいころに、何年かモダンバレエやってまして。まあ圧倒的運動神経の悪さで側転ができないのと練習がしんどくなってやめたんですがね。小3のとき、あれが人生最初の挫折でしたね(遠い目)。
で、その教室で見たお姉さんたちの背格好と概ね同じなんですよね。その一つが額が広いっていう。髪をひっつめてることが多いからですかね。
(ちなみにバレエを習っていたときはまだ10歳未満だったのもあってかなり身体柔らかい方だったのですが、ストレッチを続けるなどもしなかったので1か月もするとカッチコチになって、今はむしろ身体めちゃめちゃ硬いです。バレエをしていた片鱗は、実は割と長い首と、がに股にしか見られませんww言葉もまともにしゃべれない頃から通わせてくれた親には申し訳ないと思っています。)

バレエの話ばかりになってしまいましたが、演技自体もよかったと思います。特に鈴華と「変わった」「変わってない」の押し問答をするシーンはちょっと笑ってしまいました。

あとはクラブで働く同僚たちですよね。
ママが田口トモロヲ氏だってのは、終盤まで気づきませんでした。あの方やっぱり演技すごいんですね……。
一人だけパス度高い人いるな(あえてそう書いています)と思ったら、その方はトランスの方でした。ですよね。



私自身は、俳優自身の「属性」で演じる役柄が狭まってはいけない、つまりシスがトランスを演じるのはアリと思っているんですけど(まあ大変なんだろうととは思いますがね)、これについてはネトフリ限定で『トランスジェンダーとハリウッド』というドキュメンタリー映画が配信されているとこの映画のレビューをいろいろ読んでいるときに知りまして、観てからこの記事書こうかなと思ったんですけど、これはこれだけで一つ記事にできるほどの内容なんだろうし、書きたいことがぐちゃぐちゃしそうだなって思ったんで、とりあえずこれは見ないで今日書いている次第。これ見たら意見変わるかもしれませんね。

www.netflix.com



映画関係者の皆さん、ありがとうございました!